【薬剤師の勉強にオススメ】『糖尿病薬物療法指導力アップ講座』で学ぶチーム医療

糖尿病治療は、薬から始まるわけではありません。
その土台にあるのは食事療法と運動療法であり、薬物療法は正しい生活習慣の上に成り立つものです。
良好な血糖コントロールを維持するためには、医師や薬剤師だけでなく、看護師や管理栄養士など、多職種の専門性を活かした患者教育が欠かせません。


今回紹介する『糖尿病薬物療法指導力アップ講座』は、そのような多職種連携の視点から糖尿病治療を学べる1冊です。
教科書的な基本事項の整理にとどまらず、症例紹介が大部分を占めているのが特徴です。
豊富な症例を通して「現場でどう患者と向き合い、どう指導につなげるか」が具体的に紹介されており、病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師や看護師にとっても学びの多い内容となっています。

一方で、薬局薬剤師である私が強く感じたのは、栄養指導や運動療法に十分に踏み込めていないという課題です。
外来の投薬指導という限られた時間の中では、薬の説明や副作用、注意点などが中心になりがちで、生活習慣への指導は「バランスの良い食事を」「カロリーを控えましょう」といった一般的な言葉にとどまってしまう。

これは私自身の弱みでもあり、多くの薬局薬剤師にも共通する課題ではないでしょうか。
だからこそ、本書から得られる多職種の視点や症例を通じた学びは大きな意味を持ちます。
本記事では、
・本書はどのような本なのか
・薬局薬剤師の私が本書をどのように活かし、トレーシングレポートにつなげたのか
・本書をオススメできる人
を紹介します。
これらを通して、本書から得られる学びと実務での活かし方を一緒に考えていきましょう。
| 評価項目 | 評価 | ポイント |
|---|---|---|
| 総合評価 | 症例数が多く実務に応用できる人には良書。ただし、経験が浅い薬剤師や薬局勤務では遠く感じる部分もあり、中上級者向けと感じたため評価は控えめにしました。 | |
| 実務での活かしやすさ | 業務中に調べて使う本ではなく、得た知識をどう実務に落とし込むかが求められます。 | |
| 自己学習への向き | 症例を暗記するより、自分の担当患者に置き換えて考えることで理解が深まります。繰り返し読むことでレベルアップにつながります。 | |
| 読みやすさ | 文章自体は読みやすいですが、それぞれの症例を別々の方が執筆されているため、文章のクセが異なります。また、どの症例にも冒頭に紹介される患者情報は連続した文章で紹介されるため、読みにくかったです。 | |
| コスパ | 税込4,180円。医療書としては標準的~やや高額な価格帯です。活用できる人にはコスパが良いですが、初学者には活用しきれずに高めに感じてしまうかもしれません。 |
【のしんの一言】

知識を活かせるかどうかは、“自分次第”ではなく“環境次第”かもしれません。
もし今の職場に違和感があるなら、一度こちらの記事も読んでみてください。
▶︎学び続けたい薬剤師のための“転職の考え方”はこちら

H2 『糖尿病薬物治療指導力アップ講座』とはどのような本なのか
『糖尿病薬物治療 指導力アップ講座』とはどのような本なのか

本書は、糖尿病薬物療法の基本を整理しつつ、実際の症例を通して多角的に学べる構成になっています。
また、教科書的な知識だけでなく、現場での指導や多職種連携のあり方に触れられるのが特徴です。
ここからは、本書の全体像や特徴的なポイントを順に紹介していきます。
【自己学習用】 現場で調べる本ではなく、自宅で知識を深め、働き方のヒントにする1冊
本書はいわゆる「ポケットマニュアル」や「医薬品集」のように、疑問が出たときにさっと開いて答えを探す本ではありません。
まとまった時間をとってじっくり読み込み、自分の考え方や行動の幅を広げるための1冊です。
症例を追いながら「自分ならどう対応するか」「どんな提案ができるか」と考えることで、現場に活きる知識を得ることができます。

単に答えを確認するのではなく、読んで考え、振り返ることで知識を自分のものにしていきたいです。
そのため、新人向けというよりも、中堅〜ベテランの薬剤師が自らの経験を踏まえつつ学びを深めるのに適した1冊と言えるでしょう。
糖尿病関連のいろいろな症例を学べる
本書の大きな特徴は、さまざまな症例を通して、糖尿病について学べることです。
本書は、大きく「第1部:総論」と「第2部:症例検討」の2部構成で作られています。
第1部では、糖尿病薬物療法の基本的な考え方を学びます。
各治療薬の特徴や作用機序、多職種連携、服薬指導のポイントなど、実践に必要な基礎知識を体系的に学べます。
第2部では 全20例 が掲載されており、薬物療法の導入から注射、合併症、ライフスタイル別のケースまで幅広く取り上げられています。
たとえば、以下のような実際的な症例が紹介されています。
・経口血糖降下薬が追加されたが、きちんと薬を飲めていない患者
・副作用をおそれて薬の量を減らし、血糖コントロールが悪化している患者
・自己注射の導入を拒否する患者
・心筋梗塞を契機に2型糖尿病と診断された患者
・妊娠希望/妊娠中の糖尿病患者
これらの症例は、単なる「ケース紹介」ではなく、患者の心理背景や家族関係、職場環境まで丁寧に描かれており、治療を“生活の中で支える”という視点が貫かれています。

まずはいろいろな症例を知るだけでも臨床の引き出しが増えますが、さらに「自分の職場に同じような患者が来たらどうするか」と考えながら読むことで、実務に直結する学びが得られます。
本書のキーワードは「モノとヒトの関係」
糖尿病治療において薬剤師が扱う「モノ」とは、薬そのものを指します。
しかし、薬を正しく使うためには、その“先にいるヒト”──つまり患者の生活や価値観を理解することが欠かせません。

本書が伝えているのは、薬の特性や用量を学ぶだけでなく、患者がどのように日常生活を送り、治療にどんな思いや悩みを抱えているのかを知ることの大切さです。
薬という「モノ」を通して、患者という「ヒト」とどう関係を築くか。その視点こそが本書全体に流れるテーマです。
症例を通して、薬の知識を“生活の中で生かす”ための考え方を学べるのが本書の魅力であり、読者が臨床現場でより深く患者に寄り添うためのヒントとなります。
多職種連携の中で薬剤師に求められる役割を整理できる
本書では、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師など、複数の職種が連携して糖尿病治療に関わる実際のケースが多く取り上げられています。
その上で、薬剤師がそのチームの一員としてどのように関わるべきかを解説しています。
特に薬剤師に求められることは、糖尿病治療薬の適正使用を支えるうえで、
・合併症や併用薬への配慮
・多剤併用における相互作用
・薬の重複や副作用のモニタリング
などが重要であると示されています。
また、患者の生活背景を踏まえた投薬指導や、医師へのフィードバックも欠かせません。

単に「薬を説明する人」ではなく、生活習慣や他疾患とのバランスを見ながら、患者の治療を長期的に支える存在である――そのような視点を改めて確認できる内容です。
薬局薬剤師である私が『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』を読んだ感想

本書を読んでまず思ったのは、「病院薬剤師と薬局薬剤師では感じ方が全く違うだろうな」ということです。
登場する多くの症例が、病院でのカンファレンスや多職種連携のシーン。リアルな現場を想像しやすいのは、きっと病院薬剤師の方だと思います。
ですが、私も薬局薬剤師として日々、外来や在宅の糖尿病患者さんに関わっています。
その立場から読んで感じたこと、そして現場でどう活かせそうか――その視点で感想をまとめました。
普段関わることのない患者の症例を知ることができる

本書では、薬局ではなかなか関わることのない入院中の糖尿病患者の症例を数多く学ぶことができます。
たとえば、インスリン導入を目的とした入院、血糖コントロールが安定しない患者の治療調整、糖尿病に関する患者教育を目的とした入院 など、病院だからこそ経験できるケースが数多く紹介されています。
薬局薬剤師としては普段、外来患者とのやり取りが中心で、入院期の患者と接する機会は限られます。

こうした症例を通して「入院中にどのような指導が行われ、どのようにチームで支えているのか」を知れることは、学びが多いと感じました。
患者の生活背景や病識、他職種の支援体制などを具体的に知ることで、外来や在宅での関わり方にも活かせる視点を得ることができます。
(気になった点)反面、遠い世界のことにも感じた

正直に言うと、読んでいて「少し遠い世界の話だな」と感じる部分もありました。
登場する多くの症例が、病院での入院患者を対象にしていて、医師・看護師・管理栄養士がチームで密に連携しながら治療を進めています。
薬局では患者さんと1対1で接することが多く、他職種とリアルタイムに話す機会はほとんどありません。
そのため、書かれている内容をそのまま自分の現場に当てはめるのは難しいと感じる薬局薬剤師の方も多いのではないかと思います。

私自身も、「次はどんな症例だろう」と興味を持って読み進めるというよりは、少し距離を感じながらページをめくっていました。
それでも、「自分には見えていなかった医療現場の一面を知ることができた」という点では、読んで良かったと思える内容でした。
薬剤師だけでなく、他の医療従事者にも学びがあると感じた
本書はタイトルに「薬物療法指導力アップ」とありますが、内容は薬剤師だけに向けたものではありません。
医師・看護師・管理栄養士など、チーム医療に関わる多くの職種にとって学びのある構成になっています。
症例ごとのディスカッションでは、それぞれの職種がどんな視点で患者を見ているのかが分かりやすく整理されています。

「薬をどう使うか」だけでなく、「どうすれば患者さんが前向きに治療に取り組めるか」「生活の中で続けられる支援とは何か」といった点にも焦点が当てられており、職種を超えて共通するテーマが多いと感じました。
薬剤師が他職種の考え方を知ることで、今後の連携や情報共有のあり方も学べます。
看護師や管理栄養士が読んでも自分の専門分野に重ねて理解できる内容だと想像します。

まさに“チーム医療を知るための1冊”という印象を受けました。
(気になった点)2019年発行のため、新しい薬は掲載されていない
本書は2019年の発行であるため、ツイミーグ(イメグリミン)やリベルサス(セマグルチド)など、その後に登場した新しい糖尿病治療薬は掲載されていません。
そのため、最新の薬剤情報を得たい方には物足りなく感じるかもしれません。

ただし、本書の強みは薬の機序や使い分けそのものではなく、「患者をどう捉え、チームでどう支えるか」という部分にあります。
薬の情報が少し古くても、症例を通して“患者を診る視点”を学ぶという点では、今でも十分に参考になります。
新しい薬が増え続ける中でも、患者との関わり方やチーム医療のあり方は大きく変わりません。
その意味では、“普遍的な学び”が詰まった1冊だと感じました。
(気になった点)薬局薬剤師が本書を活かすのは難しいかも
本書を読んで感じたのは、本書の内容をそのまま薬局業務に活かすのは少し難しいかもということです。

症例の多くは病院でのカンファレンスや多職種会議が中心で、薬局ではなかなか経験できない場面が多く登場します。
特に難しいと感じたのは、管理栄養士の介入です。
管理栄養士が在籍している薬局もあるようですが、私の薬局にはおらず、門前のクリニックにもいません。おそらく多くの薬局でも同じ状況ではないでしょうか。
糖尿病治療において食事療法はすべての治療の土台であり、本来なら栄養指導こそ最も重要な介入のひとつだと思います。
外来で管理栄養士の栄養指導が求められるほどコントロール不良が続く患者さんは、教育目的で入院が必要になることもあります。
ですが、入院は患者さんにとって大きな負担になる場合も考えられます。
だからこそ、外来でも管理栄養士の栄養指導につなげられれば、治療の選択肢が増えるのではないかと感じました。

この「どうすれば外来で栄養指導につなげられるのか?」という疑問が、本書を読んだあとに自分が行動を起こすきっかけになりました。
私はこのように『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』を活用しました

ここからは、薬局薬剤師の立場から私が本書をどのように実務に活かしたのかを紹介します。
病院のようにカンファレンスや多職種会議に参加する機会は少ないですが、薬局だからこそできるアプローチがあるとも感じました。
本書を読んだことで「自分の職場ではどう動けるか」を考え、実際に行動につなげてみた内容をお伝えします。
管理栄養士による栄養指導は、医師の指示が必要な医療行為であると知った
本書を読んだことをきっかけに、外来で管理栄養士の栄養指導を受けるにはどうすればいいのかを調べてみました。

その中で初めて知ったのは、管理栄養士による「栄養指導」は医師の指示があって初めて行える医療行為だということです。
薬局薬剤師として、患者さんから「食事のことを相談したい」と言われることは少なくありません。
しかし、私たちがその場で専門的な栄養指導を行うことはできませんし(少なくとも私はできません💦)、管理栄養士による指導を受けてもらうには、医師からの指示書が必要になります。
つまり、「栄養指導が必要だと思う患者さんがいたとしても、薬局だけでは完結しない」という現実があります。

この仕組みを理解したことで、医師にどう働きかけるか、どう情報提供すれば患者さんを管理栄養士につなげられるかを意識するようになりました。
本書の症例では管理栄養士が登場するが、薬局には管理栄養士がいないのが現実
本書の多くの症例では、医師・看護師・薬剤師に加えて管理栄養士がチームの一員として関わっています。
薬の調整と同じくらい、食事指導や栄養管理の重要性が強く示されています。
医師の指示のもと、管理栄養士が患者さんの生活や嗜好を踏まえて食事内容を提案し、それに合わせて薬剤師が薬物療法を支える――そんなチーム医療の現場の様子が紹介されています。
一方で、外来の薬局の現場に目を向けると、管理栄養士が常駐している薬局はまだ少数派です。

私の薬局にも管理栄養士はおらず、門前のクリニックにもいません。
薬局薬剤師として患者さんから「食事の相談をしたい」と言われても、管理栄養士による栄養指導につなげる手段はありませんでした。
外来患者に栄養指導を受けてもらうにはどうすればいいのか
外来での管理栄養士の介入について調べたところ、日本栄養士会のホームページを見つけ、「管理栄養士がいない診療所の皆様へ」というページがあることを知りました。
そこでは、都道府県栄養士会が運営する栄養ケア・ステーションに依頼することで、登録された管理栄養士が診療所に出向いて栄養指導を行うことができると書かれています。

つまり、院内に管理栄養士がいない診療所でも、外部の管理栄養士に依頼することで外来栄養食事指導を実施できるということです。
指導の内容には、以下のようなものが含まれています。
・疾患に応じた食事内容や食事形態の指導
・食事摂取量や栄養状態の確認
・病態・嗜好・生活環境を考慮した具体的な献立提案
・栄養補助食品や介護用食品の紹介、使用方法のアドバイス
・その他、療養生活に関するさまざまな相談
この制度を知ったことで、「門前のクリニックでも栄養指導を取り入れられるかもしれない」と感じました。

そして、この情報をトレーシングレポートで医師に共有し、外来での栄養指導につなげてみようと考えました。
患者から「栄養指導を受けたい」と言われたケースと、私が提出したトレーシングレポート
今回、トレーシングレポートを提出したのは、強化インスリン療法(基礎インスリン+食事ごとの即効型インスリン)で管理中の70歳代男性の2型糖尿病患者さんです。
毎回インスリンの処方が出ており、さらに「ブドウ糖も欲しい」と毎回申し出があります。
HbA1cは常に8〜9%台とコントロール不良でありながら、低血糖を頻発しているという、あまり好ましくないケースです。
低血糖が起きやすい時間帯を確認したところ、まだ現役で仕事を続けており、食事の時間や内容が日によってバラバラであることがわかりました。
外食やコンビニ弁当が多く、食事量が一定でないことが低血糖や血糖変動の一因になっていると考えられました。
そのため、管理栄養士による栄養指導の存在をお伝えしたところ、患者さんから「一度受けてみたい」との反応がありました。
そこで、処方医に情報提供をしてもよいか確認を取り、了承を得たうえで、トレーシングレポートを提出しました。

このときに特に意識したのは、“医師に丸投げしないこと”です。
栄養指導の実施には、クリニック側での管理栄養士の手配、医師からの指示書作成、指導の実施まで、すべて医師の対応が必要になります。
薬局では直接介入できないため、実際の負担はすべて医師側にお願いする形になります。

そのため、トレーシングレポートでは「申し訳ありませんが」という気持ちが伝わるよう、依頼というより“ご相談”のトーンで記載しました。
外来での栄養指導の重要性を伝えつつ、医師への配慮を忘れないように心がけました。
以下が実際に提出したトレーシングレポートです。
患者氏名:〇〇〇〇 様
年齢・性別:〇〇歳・男性
提出日:令和〇年〇月〇日
薬局名:〇〇薬局
作成者:薬剤師 のしん
【報告内容】
外来での管理栄養士による栄養指導の実施をご検討いただきたく、ご相談させていただきます。
〇〇様は、強化インスリン療法で血糖コントロールを行われておりますが、HbA1cは8〜9%台と高値で推移しており、低血糖を頻回に認めます。
交付時には毎回ブドウ糖の希望があり、低血糖への不安を強く感じておられる様子です。
服薬指導の際に低血糖が起きやすい時間帯や食事内容を伺ったところ、現役でお仕事をされており、食事の時間や内容が日によって不規則とのことでした。
外食やコンビニ弁当が多く、食事量の変動もあることから、血糖変動の要因の一つとして食事内容が影響している可能性が考えられます。
〇〇様に管理栄養士による栄養指導についてお伝えしたところ、「栄養指導を受けたい」との返答がありました。
そのため、管理栄養士による栄養指導の実施をご検討いただきたく、ご連絡させていただきました。
日本栄養士会の「管理栄養士がいない診療所の皆様へ」に紹介されている、〇〇県栄養士会 栄養ケア・ステーションを活用することで、院内に管理栄養士がいらっしゃらない場合でも、外部の管理栄養士による外来栄養食事指導が可能とのことです。
(参考)「栄養ケア・ステーション活用の流れ」
※ 実際のトレーシングレポートには、日本栄養士会ホームページに掲載されている「栄養ケア・ステーション活用の流れ(フローチャート)」を添付しました。
ブログでは図は掲載していませんが、実際の提出時には参考資料として添付しました。
お忙しいところ恐縮ですが、〇〇様の栄養指導についてご検討いただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。
トレーシングレポート提出後、患者さんは主治医と相談のうえ、栄養指導・教育目的で近隣の総合病院へ入院されました。
門前のクリニックの医師は消化器内科が専門であったため、「糖尿病専門医の指導を受けた方が良いだろう」と判断され、紹介状を作成しての入院となりました。

結果として、外来での管理栄養士による栄養指導には至りませんでした。
ですが、今回のケースは、トレーシングレポートをきっかけに患者さんの治療への意識が高まり、栄養指導につながったという意味で大きな成果だったと感じています。
『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』をオススメできる人
ここまで紹介してきたように、本書『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』は、薬剤師だけでなく多職種が一緒に学べる内容になっています。
症例の多くは病院での多職種連携を前提としており、特に入院期や教育入院の患者に関わる医療従事者にとって実践的です。
一方で、薬局薬剤師にとっても、チーム医療の視点を学び、日々の外来業務を見直すきっかけになる1冊だと感じました。

ここでは、私の視点から本書を特にオススメしたい人を紹介します。
インスリン導入目的など糖尿病患者がよく来る病院薬剤師

病院で糖尿病患者を多く担当している薬剤師には、特にオススメできる1冊です。
本書では、インスリン導入目的の入院や、血糖コントロール不良で教育入院となった患者など、入院期に関わるさまざまな症例が紹介されています。
各症例では、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師がどのように連携し、患者に寄り添った指導を行っているかが具体的に紹介されています。
病棟業務やチーム医療の現場でそのまま活かせる内容です。
病院薬剤師として、糖尿病治療薬の調整やインスリンの導入支援を担当している方にとっては、他職種との連携や患者指導の深め方を学ぶ実践書として非常に参考になると思います。
1型糖尿病患者が来局される薬局薬剤師
本書で紹介されている20の症例のうち、4つは1型糖尿病患者のケースです。

私自身、10年間以上薬剤師として働いてきましたが、これまでに1型糖尿病の患者さんに出会ったことはありません。
そんな私が印象に残ったのは、“進学をきっかけに生活リズムが乱れ、自己注射が不規則になった1型糖尿病患者”の症例です。
高校生までは実家で生活しており、友人にもインスリン注射のことを伝えていたものの、大学進学を機に一人暮らしを始め、新しい友人にはそのことを打ち明けられず、次第に血糖コントロールが乱れていったという内容でした。
この症例を読んで、

思春期の友達に1型糖尿病のことを伝えるのは確かに勇気がいるよな…
と感じました。
そして同時に、

もし自分が薬剤師としてこの患者さんに出会ったら、どんな声をかけられるだろう。
と考えさせられました。
1型糖尿病の患者さんと関わる機会が少ない薬剤師にとっても、患者の“生活の悩み”にどう寄り添うかを考えさせてくれる内容であり、実際に1型糖尿病患者を担当している薬剤師には、より実践的な気づきを得られる一冊だと思います。
糖尿病患者と関わる機会が多い看護師

病棟や外来で糖尿病患者と関わる機会の多い看護師にも、本書は大いに参考になる内容です。
本書では、看護師が患者の生活に最も近い立場として、どのように支援を行うかが丁寧に解説されています。
たとえば、患者の服薬状況や血糖測定の習慣だけでなく、家庭環境・仕事・経済状況など、生活背景を理解することの重要性が繰り返し示されています。
また、血糖自己測定や自己注射の実施状況を確認し、患者が自分の力で管理できるよう支援する「セルフマネジメントのサポート」も看護師に求められる役割として強調されています。
さらに、医師・薬剤師・管理栄養士などとの多職種連携についても触れられており、退院後の生活を見据えたチーム支援の実践例が紹介されています。
患者の「できること」を引き出しながら、自立支援を目指す看護実践のヒントを得られる1冊だと感じました。
(番外編)管理栄養士と連携できずに悩んでいる薬局薬剤師へ
本書には書かれていませんが、薬局薬剤師でも外来での管理栄養士による栄養指導に関わることはできます。
トレーシングレポートを通して医師に情報提供し、栄養指導の導入を提案するという形で介入が可能です。

本記事では、その具体的な流れや記載の工夫については、私が実際に提出したトレーシングレポートを紹介しています。
もしこの記事を読んでくださっている薬局薬剤師の方で、「この患者さんには食事面でのサポートが必要かもしれない」と感じる方がいれば、
ぜひ本記事を参考にトレーシングレポートの提出を検討してみてください。
本書を強くオススメするというよりも、この記事を通じて「薬局からでも栄養指導につなげる第一歩を踏み出せる」――そう感じていただけたら嬉しいです。
監修者・編者紹介
監修:曽根博仁(そね・ひろひと)先生
新潟大学大学院 医歯学総合研究科 血液・内分泌・代謝内科 教授。
糖尿病・内分泌領域の臨床と研究に長年携わり、日本糖尿病学会や内分泌学会などでも要職を歴任。
臨床現場と研究の両面から糖尿病治療の発展に尽力されています。
編者:朝倉俊成(あさくら・としなり)先生
新潟薬科大学薬学部 教授。
臨床薬学分野を専門とし、特に糖尿病薬物療法とチーム医療の推進に注力。
薬剤師教育にも深く関わり、日本糖尿病療養指導士制度の普及にも貢献されています。
まとめ【薬だけじゃない、チームで支える糖尿病治療を学べる】

糖尿病治療の本質は、薬を正しく使うことだけではありません。
運動療法や食事療法がしっかり行われなければ、薬物療法もうまくいかないケースが多くあります。
だからこそ、患者の「生活」に寄り添い、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師など多職種が連携して支えることが大切です。

本書『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』は、その“チームで支える糖尿病治療”を、実際の症例を通して学べる1冊でした。
【本書の特徴】
・現場で調べ物として使う本ではなく、自己学習で知識を深めたり、働き方のヒントを得るための本
・教科書的な知識だけでなく、実際の症例(全20例)をもとにした実践的な内容
・多職種連携の中で、薬剤師に求められる役割を整理できる構成
【薬局薬剤師の私が本書を読んだ感想】
・薬局薬剤師と病院薬剤師では、感じ方や得られる学びが異なる
・普段関わることのない患者の症例を知ることができたが、反面、少し遠い世界にも感じた
・薬剤師だけでなく、他の医療従事者にも学びの多い内容だと感じた
・2019年発行のため新しい薬は掲載されていないが、“チーム医療で患者をどうケアするか”という普遍的な学びを得られた
【外来栄養食事指導を行いたい場合の流れ】
▶︎前提として知っておくこと
・管理栄養士による栄養指導は、医師の指示が必要な医療行為である
・都道府県栄養士会が運営する「栄養ケア・ステーション」に依頼すれば、外部の管理栄養士が診療所で栄養指導を実施できる
・外来栄養食事指導は、診療所(医師側)が管理栄養士の手配・指示書作成・指導実施を行う必要がある
▶︎ 薬局薬剤師が実際に行うステップ
・患者に栄養指導の必要性を説明し、希望があるかを確認する
・トレーシングレポートを通じて医師に情報提供し、栄養指導の導入を提案する
・その際は、医師の負担に配慮した丁寧なトーンで記載し、協力をお願いする姿勢を示す
【本書をオススメできる人】
・インスリン導入目的など、糖尿病患者が多く来院する病院の薬剤師
・1型糖尿病患者が来局される薬局薬剤師
・糖尿病患者と関わる機会の多い看護師
糖尿病治療は、薬だけで完結するものではありません。
その土台にある食事療法や運動療法を支えるには、多職種の連携が欠かせません。
本書『糖尿病薬物療法 指導力アップ講座』を通じて、薬剤師としての役割を再確認するとともに、

薬局からでもチーム医療に関われる方法があるのでは?
と感じ、実際に行動してみました。
具体的には管理栄養士がいない環境でも、外来での栄養指導につなげるためにトレーシングレポートを提出しました。
この本を読んで終わりにするのではなく、本記事で紹介したような実践例をヒントに、ぜひあなたの現場でも一歩踏み出してみてください。

薬局薬剤師の働きかけが、患者さんの“生活を支える医療”になるはずです。
【のしんの一言】

最後まで読んでいただきありがとうございます。
勉強意欲の高い薬剤師のあなたに、ひとつだけ伝えたいことがあります。
「もっと学びたい」気持ちを活かすには、“どこで働くか”もとても大切です。
▶︎ 学び続けたい薬剤師のための“転職の考え方”はこちら






