
今回は最初に正直な感想から話させてください。
今回紹介する本は、万人にオススメできる内容ではありません。
でも、中古で数百円と非常に安く手に入り、妊娠・授乳に関する知識をさらに深めたい、自分の視野を広げたいと考えている方にとっては、選択肢のひとつになるかもしれません。
本書『妊娠・授乳と薬Q&A 第2版』は、妊婦さんや授乳婦さんへの薬の使い方に関する疑問をQ&A形式でまとめた1冊です。ただし、一問一答のような実践的な形式ではなく、内容もやや抽象的。情報も古く、即時対応に使うには正直難しいと感じました。
それでも、他の書籍には載っていなかった知識が一部含まれており、「ああ、そういう視点もあるのか」と気づかされることもありました。文章構成も“結論→解説”で進むため、読みやすさは感じます。

この記事では、本書の特徴や活用できるポイント、注意したい点を率直にレビューします。
すでに妊婦・授乳婦の薬について勉強している方が、さらに一歩踏み込みたいと思ったときに、この本が役立つかどうかの参考になればうれしいです。
評価項目 | 評価 | ポイント |
---|---|---|
総合評価 | 本書の内容の多くは、他の妊婦・授乳婦向け参考書にも記載されています。情報が古く(平成25年発行)、最新の判断に使うには不安が残ります。オススメできる人がかなり限られるため、評価は低めとしました。 | |
実務での活かしやすさ | 実際の患者対応中にこの本を開いて調べることは、まず無いと思います。実務での即答や判断には向かない構成です。 | |
自己学習への向き | 自宅でゆっくり読みながら学ぶには使えます。ただし、「もっと詳しく知りたい」という読者には物足りないかもしれません。すでに他の参考書でひと通り勉強してきた方には、別の視点を得るきっかけとして一定の価値があります。 | |
読みやすさ | 内容に対する物足りなさが先に立ってしまっている可能性はありますが、文章そのものも少し読みづらい印象がありました。ただし、Q(見出し)に対してA(解説)が“結論から始まる構成”は、わかりやすくて好印象でした。 | |
コスパ(新品) | 税込2,420円。内容に見合った価格かといわれると、かなり高価格と感じます。あえて新品で購入する必要はないかもしれません。 | |
コスパ(中古) | 中古であれば200円台で入手可能です。内容に物足りなさを感じたとしても、この価格なら「視野を広げるための1冊」として気軽に試せると思います。 |
『妊娠・授乳とくすりQ&A 第2版』とはどのような本か
Q&A形式で構成された、妊娠・授乳期の薬の考え方を学ぶ本
本書は、妊娠中や授乳中に薬を使う際に出てくる疑問をQ&A形式で解説した参考書です。Q(見出し)ごとにテーマがあり、その下にA(解説)として説明が続く構成です。
ただし、Qに対して「これが知りたかった!」という納得感のあるAが返ってくる場合もあれば、「いや、そういうことを聞きたかったんじゃないんだけどな…」と感じることもありました。
そして、どちらかというと後者の印象のほうが強く残りました。
現場対応ではなく、自己学習用としての位置づけ
患者さんからの質問にすぐ答えるための実務書というより、自宅でじっくり読みながら妊婦・授乳婦の薬物療法に対する理解を深めていくための1冊です。
実際の使用可否に関する記載はありますが、具体的な薬剤名や細かな情報は少なめと感じました。
最新の情報が含まれていないため、普遍的な考え方を学ぶと割り切る必要がある
本書は第2版の初版発行が平成25年(2013年)であり、情報の更新がないまま10年以上が経過しています。
妊婦・授乳婦への薬物投与は、そもそも倫理的に大規模な臨床試験が困難な分野です。そのため、個別の症例においては経験則や考え方の引き出しを持っておくことが重要になります。
本書は、「リスクとベネフィットを比較してケースバイケースで考える」という、普遍的な判断の枠組みを学ぶための“補助的な参考書”として読むのが現実的だと感じました。
『妊娠・授乳とくすりQ&A 第2版』のメリット・気になった点

本書を実際に読んでみて、「これは良いな」と思えた点もあれば、「うーん…ちょっと使いにくいかも」と感じた点もありました。
ここでは、率直に感じたメリットと気になった点を整理してお伝えします。
『妊娠・授乳とくすりQ&A 第2版』のメリット
結論が最初にある構成で、ざっくり把握しやすい
Q(見出し)に対して、A(解説)の冒頭でまず結論が示されており、その後に理由や補足説明が続く構成です。読みながら「で、結局どうなの?」と迷わずに済む点は、文章のわかりやすさにつながっています。
Q&A形式なので、テーマ単位で気になるところから読める
本書はQ&A形式で構成されているため、最初から通読しなくても、気になるテーマや症状別の項目から読み始められます。辞書的な使い方は難しいですが、拾い読みしたい人には向いています。
他の本では見かけない視点が少しだけ含まれている
全体としては既出の情報が多い印象ですが、ごく一部に「他の参考書では見なかったな」と感じる情報もあります。すでに他書で学習を進めている人にとって、新たな気づきを得るきっかけになる可能性があります。
たとえば、インフルエンザワクチンの添加物として使われてきたチメロサール(エチル水銀化合物)についての記載は、本書で初めて目にしました。これまで色々な妊婦・授乳婦向け書籍を読んできましたが、この物質に触れている本は他に見当たりませんでした。

すでに他書で学習を進めている方にとっては、知識の幅を少し広げるきっかけになるかもしれません。
なお、チメロサールはワクチンの保存料として使われてきた水銀化合物で、安全性への配慮から現在では「無添加」や「減量タイプ」のワクチンが一般的になっています。
危険と断定されているわけではありませんが、より安心できる選択肢を選ぶという観点から、使用の見直しが進められているようです。
中古で200〜300円と、コスパは非常に高い
新品では2,420円(税込)ですが、中古であれば200〜300円で購入できます。
内容に物足りなさを感じたとしても、この価格なら“試し読み”のつもりで購入しても損はない価格帯です。
『妊娠・授乳とくすりQ&A 第2版』の気になった点
情報が古く、最新の判断には使いづらい
本書の第2版は2013年(平成25年)の発行です。
私自身、最新のガイドラインを細かく追っているわけではありませんが、それでも10年以上前の情報を読むと、「この内容って今でも通用するのかな…」と不安になる場面がありました。
妊婦・授乳婦という慎重さが求められる領域だからこそ、情報の鮮度が気になる方も多いのではないでしょうか。
解説が抽象的で、具体的な判断にはつながりにくい
薬剤名や用量、実際の処方例といった具体的な情報が少なく、「どんなときにどう考えるか」を実務的にイメージしにくい構成になっています。
ケーススタディのような視点も乏しく、臨床現場での判断の参考にするには、少し抽象度が高い印象です。
実際の現場での対応には不向き
調剤中や服薬指導中など、即時に判断を求められる場面では本書を開いて確認するのは難しいと思います。
見出しと内容にズレを感じる項目もあり、「その答えが欲しかったわけではない…」という読後感になるケースも少なくありませんでした。
Q&A形式だが、読者の問いとズレる場面がある
Q(見出し)が魅力的であっても、それに対するA(解説)の内容が期待と異なることがあります。知りたいポイントがぼやけてしまうケースも多く、「結局どうなのか?」という疑問が残りやすい構成でした。
たとえば「妊娠と精神疾患について知りたい」というQでは、妊娠中の薬物治療について、「母体の状態安定が優先される」「必要最小限の薬で治療する」といった記載にとどまり、実際にどの薬をどう使うのかといった具体的な情報はありませんでした。

こうした傾向が他のQ&Aでも散見され、「それってつまりどうすればいいの?」という疑問が残る部分が少なくない印象です。
本書の感想【誤解を恐れずに言うなら「この本じゃなくていい」】
率直に言えば、他の本のほうが圧倒的に実務向き
実務で妊婦・授乳婦への対応をするうえで、本書はあまり役立つとは言えません。
患者さんからの質問に答えたり、処方意図を確認したりするような場面で、本書を手に取ることはほぼないと思います。
内容が抽象的で、個々の薬剤名や具体的な判断基準に関する記載が少ないため、実際の業務にそのまま落とし込むには難しい印象でした。
「実務向け」という観点では、『妊娠と授乳 改訂4版』や『妊娠・授乳と薬のガイドブック』のほうが圧倒的に活用しやすいです。
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書かれている内容の大部分は、他書でも学べる
本書に書かれている内容の多くは、すでに他の妊婦・授乳婦向けの参考書やガイドラインでも触れられているものばかりです。
「母乳中への移行量は少ない」「リスクとベネフィットを比較して判断する」などの考え方は、さまざまな参考書で繰り返し見かけるものであり、本書で初めて知るような情報はあまり多くありませんでした。
そのため、「まず1冊」という位置づけで選ぶ本としては適しておらず、あえて本書を選ぶ理由が見つからないというのが率直な感想です。
ただし、「この本でしか得られなかった視点」も一部あった
たとえば、ワクチンの添加物として使われてきた「チメロサール(エチル水銀化合物)」に関する記載は、本書で初めて目にした情報でした。
また、本書では製薬メーカーに情報提供を依頼する際の“質問の仕方”にも触れられており、

「この薬を妊婦(または授乳婦)に投与してもいいですか?」
と尋ねるのではなく、

「この薬について、妊婦(授乳婦)に対する症例報告や疫学調査がありますか?」
と聞く方が、添付文書に書かれていない情報を引き出しやすい、という視点が紹介されています。
投与していいですか?と聞くと、添付文書に書かれている以上のことは答えてくれない傾向があるようで、「避けて下さい」という返答しか返ってこない可能性が高いようです。
これは現場でもそのまま使えそうだな、と素直に感じた部分です。
オススメできる人【視野を広げたい人にとっての“3〜4冊目の選択肢”としてならアリ】
妊婦・授乳婦の薬物治療について、ある程度勉強している人
本書の内容は全体的に抽象的で、具体的な薬剤名や実践的な判断材料が少ないため、「まずはこの1冊から」という使い方にはあまり向きません。
一方で、すでに他の信頼できる参考書をいくつか読んでおり、妊婦・授乳婦に対する薬物治療の考え方をある程度理解している人にとっては、補足的な知識や、少し違った視点に触れる機会になるかもしれません。
あくまで「視野を広げたい」と思ったときの3〜4冊目、という位置づけが現実的です。
中古で安く買える本を試し読み感覚で探している人
本書は新品で購入すると税込2,420円ですが、中古であれば200〜300円台で入手できます。
そのため、「ちょっと気になるけど、内容が微妙だったら嫌だな…」という方でも、気軽に試し読み感覚で手に取りやすい価格帯です。
内容に大きな期待はしない前提で、「こんな考え方もあるのか」と割り切って読む分には、価格に見合った価値はあるかもしれません。
ただし、新品で購入するのは正直あまりオススメできません。
他の信頼できる本をすでに持っているうえで、“なんとなくもう1冊”を探している人にはちょうどいいと思います。
Q&A形式の読みやすい構成が好きな人
本書は、各トピックがQ&A形式でまとめられており、1項目ごとに独立した構成になっています。
最初から順番に読む必要はなく、気になるテーマだけを拾い読みできるのは、この本のよいところです。
文章量も比較的コンパクトで、1トピックあたり数ページに収まっているため、通勤中やすきま時間に少しずつ読み進めることもできます。
「本を読むのは苦手だけど、Q&A形式なら入りやすい」という方には、構成的には合っていると思います。
著者紹介
本書は、虎の門病院薬剤部長の林昌洋氏と、国立成育医療研究センター薬剤部長の石川洋一氏の監修・編集のもと、全国の大学病院や専門医療機関で活躍する薬剤師らが執筆を担当しています。
国立成育医療研究センター、小児・周産期医療に特化した病院、大学附属病院など、妊娠・授乳とくすりに関する実務経験と知見を有する執筆陣によって構成されており、医療現場での視点を踏まえた内容になっています。
まとめ【目的と立場によって評価が分かれる1冊】
本書は、妊娠・授乳に関する薬の疑問にQ&A形式で答える構成になっています。

ただし、情報の鮮度や実用性という点では、正直に言って万人向けではありません。
他の書籍で基礎的な内容をひと通り学んだうえで、「もう少し違う視点を持ちたい」という人にとっては、新しい発見もあるかもしれません。
【本書の特徴】
・妊娠・授乳中の薬に関するトピックをQ&A形式で収録
・各項目に結論が先に書かれており、文章構成はわかりやすい
・情報は古く(第2版初版:平成25年)、最新の実務には不向き
・内容が抽象的で、具体的な薬剤名や判断指針が少ない
・中古であれば数百円で購入でき、試し読み感覚で入手可能
【オススメできる人】
・すでに他の参考書で妊婦・授乳婦の薬物治療を学んでいる方
・視野を広げたい、別の切り口を取り入れたいと感じている方
・安価な医学書を探していて、中古でも抵抗がない方
・Q&A形式で、少しずつ読み進めたい方
この本を1冊目として選ぶのはオススメできませんが、「気になっていた内容が載っているかも」「ちょっと見てみたい」という軽い気持ちで手に取る分にはアリです。
自分にとって役立つ視点が1つでも見つかれば、その出会いに価値がある──
そう思える人には、試す余地のある1冊だと思います。
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